ある日
ディズニーランドのインフォメーションに、お父さんが元気なさそうにやってきました。
インフォメーションのスタッフが、
「いかがいたしましたか?」
と聞いたところ、そのお父さんは、
「実は今日、子供と一緒に来ました。
子供が、ミッキーちゃんだとか、ミニーちゃんだとかのキャラクターにサインをしてほしいと言っていたので、サイン帳を持ってきたんです。
子供は、キャラクターを見つけては、一人一人にサインを書いてもらっていました。
そして、あと少しでそのサイン帳が全部埋まる、というところで、そのサイン帳を失くしてしまった
んです。
サイン帳、落し物で届けられていないかと思って来て見たんですが、ありませんか?」
と言ったそうです。
そのインフォメーションには、サイン帳は届けられていませんでした。
そこで、そのスタッフは、考えられるいろんなところに電話をしてみました。
ところが、どこにも届けられていなかったんですね。
そこで、そのスタッフは、サイン帳の特徴を詳しく聞いた後、
「いつまでご滞在されますか?」
と聞いたそうです。
その家族は2泊3日で来ていたので、2日後のお昼には帰らなければならなかったそうです。
スタッフはそれを聞いて「それでは、この後、もう少し探してみますので、2日後、お帰りになる前にもう一
度こちらにお寄りいただけますか。
多分、それまでには見つけられると思います」
と言ったそうです。
そして、お父さんが帰られた後、そのスタッフはさらに、細かな部署に電話をかけて聞いてみたり、自分の足で、駐車場や心当たりのある場所に探しに行ったそうです。
ところが、やっぱり、どうしても見つからなかった。
もしかしたら、それを拾った人が、
「すごい! これみんなのサイン、書いてある」
と喜んで持って行っちゃったのかもしれない。
でも、とにかく見つからなかった。
で、そのスタッフの子は、どうしたかって言うと、結局、そのサイン帳と同じサイン帳を自分で買って、自分の足で、いろんな部署をまわって、キャラクターのサインを全部書いてもらって当日を迎えたそうです。
当日、お父さんがやってきました。
多分見つからないんだろうなという気持ちで来たんだと思います。
お父さんは、
「どうでしたか?」
と聞きました。
すると、スタッフの子は、
「申し訳ございませんでした。
そのサイン帳は見つけることができませんでした。
でも、お客様、こちらのサイン帳をお持ち帰り下さい。」
と言ったそうです。
お父さんがビックリして中を見ると、キャラクターのサインが全部書いてあった。
お父さんは、もちろん大喜びして、
「ありがとうございます!」
と持って帰ったそうです。
・・・で
この話はまだ終わらないんです。
後日
ディズニーランドにそのお父さんからの、一通の手紙が届きました。
先日は「サイン帳」の件、ありがとうございました。
実は、連れて来ていた息子は脳腫瘍で「いつ死んでしまうかわからない」
・・・そんな状態の時でした。
息子は物心ついたときから、テレビを見ては、
「パパ、ディズニーランドに連れて行ってね」
「ディズニーランド行こうね」
と、毎日のように言っていました。
「もしかしたら、約束を果たせないかもしれない。」
・・・そんなときでした。
「どうしても息子をディズニーランドに連れて行ってあげたい。」
と思い
命が、あと数日で終わってしまうかも知れないというときに、ムリを承知で、息子をディズニーランドに連れて行きました。
その息子が夢にまで見ていた大切な「サイン帳」を落としてしまったのです。
あの、ご用意頂いたサイン帳を息子に渡すと
「パパ、あったんだね! パパありがとう!」
と言って大喜びしました。
そう言いながら息子は数日前に、息を引き取りました。
死ぬ直前まで息子はそのサイン帳をながめては、
「パパ、ディズニーランド楽しかったね!
ありがとう!また、行こうね」
と言いながら、サイン帳を胸に抱えたまま、永遠の眠りにつきました。
もし、あなたがあの時、あのサイン帳を用意してくださらなかったら、息子はこんなにも安らかな眠りにはつけなかったと思います。
私は、
息子は
「ディズニーランドの星」
になったと思っています。
あなたのおかげです。
本当にありがとうございました。
その手紙を読んだスタッフは、その場で泣き崩れたそうです。
もちろん、その男の子が死んでしまったという悲しみもあったと思いますが、
「あの時に精一杯のことをしておいて、本当に良かった」
という、安堵の涙だったのではないでしょうか。